応募論文概要 1996 年 4 月 21 日 JSSST/JUS/WIDE 合同コンファレンス カテゴリー:社会とインターネット 有限会社バリアフリー 林 毅 Tsuyoshi Hayashi Barrier Free, Inc. 拡張 URL Extended Uniform Resource Locator (XURL) 要旨 この文書は、インターネットを経由して、あるいは経由することなく入手可 能な資源を表現するための簡潔な文字列である Extended Uniform Resource Locator (拡張 URL: XURL) の提案を行うものである。 XURL を使うことにより我々は、どのようなタイプの資源でも指し示すことが 可能になる上、2つの世界、すなわちインターネットの世界と実世界とを統合 することができるのである。XRUL の枠組は、Uniform Resource Locator (URL) の拡張バージョンとなっている。 0. 「資源」について この文書において「資源」とは、あらゆるタイプの物事、物理的存在、概念、 精神的事項を意味している。具体的には、多くの事実情報、データベース、コ ンピュータのファイル、紙のファイル、ハードウェア、ソフトウェア、オンラ インもしくはオフラインによる情報サービス、(あなたと私を含む) 人間の存 在、良いアイデアまたは悪意ある考え、あるいはその他もろもろを指している。 いくつかはインターネット上に存在し、いくつかはあなたや私の身の回りに存 在するのである。 1. 序論 インターネットのコミュニティにとって、Uniform Resource Locator (URL) (RFC 1738) は非常に有用なコードである。このコードを用いることにより我々 は、インターネット上で提供されている多くの資源 (コンピュータのファイル もしくはサービス) を指し示すことができる。しかしながら URL は、インター ネットの領域でしか効果を有していない。 インターネットの外側には多くの資源が存在しているが、我々はそれらをイ ンターネット側から指し示したり同定することができない。数年以内に、より 多くの情報サービスがインターネット上で提供されることになるだろう。だが、 当然のことではあるが、多くの資源は以前として実世界に留まり続けるだろう し、いくつかは両方の世界で提供されるであろう。結局我々は、2つの異なる タイプの資源──1つはインターネット上の資源、もう1つはインターネット 外の資源──を取り扱わなければならないのである。今日われわれは、前者を どのように取り扱ったらよいのかについては知っている。しかし、後者につい てはまだ取り扱う手段を持っていない。それゆえ私は、インターネット外の資 源を指し示すためにも、また、2つの世界を統合するためにも XURL が必要だ と考えたのである。 もしかすると我々は、XURL を導入することによりインターネットの世界と実 世界との間に存在する壁を取り払うことができるかもしれない。加えて XURL は、もしも適切な機関がデジタル署名並びに認証を行うシステムを提供したな らば、電子的な時刻証明のための機能を持つように設計されているのである。 2. 定義説明 もしインターネット上の資源を指し示したいのならば、URL と XURL の両方 を利用することができる。一方、インターネット外の資源を指し示したいので あれば、後述する様式に従った XURL のスキームを使わなければならない。 2.1 XURL の一般形式 一般に XURL は以下の書式により表記される: X.. 1つの XURL は "X" または "x" のいずれかで始まる。(大文字の "X" が推 奨される。) 続いて表現区分 、タイムスタンプ 、それに 区分毎に記述様式が定義された文字列である表現区分別記述部 がこの順に置かれる。これら3つの各部は、ピリオド (".") により分離される。 2.2 XURL で利用可能な文字セット XURL で利用可能な文字は、7-bit の US-ASCII コード文字集合 (ANSI X3.4- 1986) のうちの印刷可能なものだけである。もし XURL 中に (いくつかの) 非 US-ASCII 文字セットを利用したいのならば、それらは印刷可能な US-ASCII 文 字セットにエンコードされる必要がある。例えば日本の漢字文字セット (の中) の文字を記述することを希望する場合は、RFC 1522 に指定された方法あるいは 他の適切な方法によりエンコードされなければならない。 2.3 具体的な表現区分 現時点では、以下の表現区分 () をカバーしている: (1) インターネット上で入手可能な資源 inet インターネット上で現在提供されている資源 inet+ インターネット上でもうじき提供されるであろう資源 (2) インターネット上には存在しない資源 real 実世界に存在する資源 feel 人の心の中にある資源 misc その他区分不能なもの 2.4 タイムスタンプのフォーマットとその意味 タイムスタンプ () は以下の様式 <@time> を用いる。ここで各部の概要ならびに記述例は以下のとおりである: 年月日を西暦で表現したもの。 例:"19960415" または "15Apr1996" (この例は 1996 年 4 月 15 日を表している。) <@time> 時刻を 24 時制で表現したもの。(分離記号としてアットマー ク ("@") を先行させる。) 例:"@2315" (この例は 23:15、つまり午後 11:15 を表している。) 現地時間の場所を示す文字列。 例:"+0900" または "JST" (この例は日本標準時を表している。) 各部の一部または全部は省略される場合がある。 2.5 インターネット上の資源の指定方法 インターネット上の資源を指定する際には以下の XURL 様式 XURL: Xinet.. を用いることができる。ここで は RFC 1738 並びに URL に 関連する他の RFC (RFC 1630 等) に準拠しなければならない。一方 は、この部分の記述により特定された日付/時刻/時刻域に於い てそれがインターネット上に実際に (確かに) 存在していたということを固定 するために利用される。 の使用はオプションであるが、もしも を活用しないのであれば単に URL を用いた方がマシである。 2.6 実世界に存在する資源の指定方法 インターネット上に無い資源のうち実世界に存在する資源を指定する場合に は、以下の XURL 様式 XURL: Xreal.. XURL: X.. を用いる。後者は前者の短縮形である。 この XURL は、我々の実世界に存在する何かを指し示す。この XURL では、 に記述された 事柄または当該事実等が で示された時刻に (確かに) 発生あるいは存在していたことを主 張するために が用いられる。 仮に公証役場あるいは郵便局等がこの XURL 表現された主張を認証するなら ば、この主張は国によってその内容、発生時刻を確認・認定されたことになる。 2.7 人の心の中にある資源の指定方法 人の心の中にある資源 (当然インターネット上には存在しない資源) の指定 は、以下の XURL 表現 XURL: Xfeel.. により可能となる。この XURL は、精神的領域にある何かを表す。オプション の は、当該人物がそのような感情を持ったのはいつであるのかを 示すために利用される。例えば、誰かが自身の気持ちを日記に書き留めるのと 同様、ある人はこの XURL の枠組の中で自身の心の奥底を記録あるいは表現す ることが可能である。 2.8 表現区分別記述部を記述する際のガイドライン 上記 2.6 および 2.7 項における表現区分別記述部 () を記述する際のおおまかなガイドラインは次のとおりである。様式は :/// となっている。ここで のカテゴリであり、 を指し示す方法である。 は (当該 XURL を記述しようと している者にとって) 表現対象となっている事柄である。 は省略され ることがある。また、もしも に従属した関係にある ならば、 は省略されることがある。 記述可能な に関する詳細な規定は現時点 ではまだ十分に検討されていない。 3. 記述例 は多様な表現が可能である。不十分かつ決し て典型的ではないかもしれないが、いくつかの例を挙げて説明する。 例1:新聞 XURL: Xreal.19950415.npaper://NYT/1/ XURL: Xreal.15Apr1996.npaper://NYT/1/ XURL: X.15Apr1996.npaper://NYT/1/ 意味:いずれも、1996 年 4 月 15 日付けの New York Times 紙 の第1面を示している。 あるいは の部分の表 現方法が異なるだけで、まったく同じ事柄を示している。 例2:本 XURL: Xreal..book:isbn//1-56592-098-8/ 意味:国際標準図書コード (ISBN) により "1-56592-098-8" と指定され ている本を指している。実際この本は、"PGP: Pretty Good Privacy" というタイトルの書籍である。このことからこの本は、次のように表 現することもできる: XURL: Xreal..book:isbn+title//1-56592-098-8 /"PGP:_Pretty_Good_Privacy"/ もし、本に ISBN が付いていないのならば、この文書は以下の様式を 提案する: XURL: Xreal..book:title//"A_History_of_Tsuyoshi_Hayashi"/ XURL: Xfeel..vbook:title //=?ISO-2022-JP?B?GyRCO2QkTjwrPXZFQRsoQg==?=/ ここで最後の XURL は、「私の自叙伝」というタイトルの仮想的な本 を指し示している。この本は、その人の心の中に存在するのである。 例3:人物 XURL: Xreal..person:dns+snail//city.yokohama.jp/235/Isogo-ku /Nakahara/2-13-19-201/"Tsuyoshi_Hayashi"/ 意味:住所が「〒235横浜市イソゴクナカハラ2-13-19-201」であり、名前 が「ハヤシツヨシ」である人物。 XURL: Xreal..person:credit_n//visa/0202-0217-0139-0000/ 意味:クレジットカード番号が "0202-0217-0139-0000" である VISA カ ードを持っている人物。(このカード番号は架空のものである。) 例4:人体の要素 XURL: Xreal..body:email+//take@barrier-free.co.jp/eye/right/ XURL: Xreal..inner:email+//take@barrier-free.co.jp/marrow/ XURL: Xreal..blood:email+//take@barrier-free.co.jp/A_RH+/ 意味:いずれも "take@barrier-free.co.jp" という電子メールアドレス を持つ人物の体の一部であり、順に右目、骨髄、A (RH+) 型の血液を 示している。もしも実在のアイバンクや骨髄バンク、あるいは日本赤 十字等の医療機関が利用するようになれば、(多くの人々がこれらを登 録することにより) いくつかの命を取り留めることができるかもしれ ない...。 例5:貨幣 (通貨) XURL: Xreal..money:print//US/dollar/199.95/ XURL: Xreal..money:print//JP/yen/4,980/ XURL: Xinet+..money:ec//TheNet/DigitalMoney/1200/ 意味:最初のものは、米国通貨 199 ドル 95 セントを表している。2番 目のものは、日本国通貨 4980 円を表している。ここで "print" とい うのは、 (2.8 項参照) に記述された "money" が紙に印刷さ れたものまたは硬貨、すなわち (今日の) 実際の貨幣であることを意 味している。最後のものは、the Net (インターネット) 上で流通可能 になろうとしている電子現金を表している。 例6:人の心あるいは心理 XURL: Xfeel.21Apr1996@1821+0900.mind:words //=?ISO-2022-JP?B?GyRCJCIhPEhoJGwkPyRKJCEbKEI=?=/ 意味:現在、1996 年 4 月 21 日の 18:21 である。今まさに私はこの応 募論文概要を書いている。上記 URL は現時点での私の心理状態 (心の 中の呟き) を書き留めたものである。 以上のように、それが物質的なものであろうとなかろうと、あるいは、デジ タルの情報であろうとアナログの情報であろうと、XURL はどのようなものでも 指し示すことができるのである。また、 を利用した内容証明など を併用することにより、あらゆる著作物の著作権やこれに隣接する権利等の法 的あるいは商業的管理を行うことも可能となる。 4. セキュリティに関する考慮 アンフェアなあるいは不法な改竄から の情報を守るため、我々 は MD5 (RFC 1321 参照) のような一方向性関数を用いた電子署名技術を導入す るべきである。それゆえ私は、以下のような追加の XURL 形式を提案したい: XURL: Xreal.8Feb1996.law:+md5//US/S.652// ここで は、米国法案 S.652 を原始テキストとして MD5 方式 により算出された 128 ビットのハッシュ値を 16 進数の文字列として表したも のであり、例えば以下のようになる: 900150983cd24fb0d6963f7d28e17f70 同様に、プライバシーあるいは暗号化に対する配慮も必要となるであろう。 5. むすび 現時点では XURL は一個人の概念上でしか存在していないが、多くの組織や 個人がこれを利用することによりインターネットの環境がより実生活に密着し た存在になればと思うのである。社会的公正を維持しながら、より多くの人々 が情報化社会のメリットを最大限に享受することを願う次第である。